高温多湿の場所は避けてください

「あーづーいー」
 上着を脱ぎ、シャツの袖をまくり、さらに胸元までだらしなく開けてマホガニーの机に突っ伏した黒髪の上官に、部下たちは呆れていた。何事にも厳しい副官が外に使いに出ているため、この上官はだらけ放題である。
 本来なら暑いと文句をいう部下達に対して叱咤する立場であろうに、今の東方司令部内マスタング組はまったく逆の光景だった。
「大佐ァ、カンベンしてくださいヨ。暑いのはみんな同じなんッスから」
「でも確かにこの暑さは厳しいですよねぇ」
 ただでさえ暑いのに、上着は脱いでもよいとはいえ分厚い生地の軍服を着用しなければならない。さらに、ここはむさくるしい男どもの集まりである。おそらく室内の温度・湿度ともに相当なものだろう。
「何もしたくなーいー」
 机に突っ伏した男は、まだ駄々をこねている。
「大佐、そろそろ仕事しないと本当に終わらないですよ」
 机の上には未処理の書類が山のように積んであるのだ。
 ちょっと太めの部下はそういって、手元にあった下敷きで上官を扇いでやった。ほんのりと流れてくる風が気持ちよいのか、目をつぶって「あー」などと呟いている。
「まったく、作業効率を良くしたいと思っているなら、扇風機くらい導入しろっ!」
 経費削減のためなのか、それとも田舎の司令部にはそんなもの取り付ける必要がないと思っているのか、暖房設備は整っているのに避暑対策は何もない。
「そういうことは俺達に言わないで、上層部にかけあってくださいよ」

 部下達もそろそろこの上官につられてやる気をなくしてきた頃、副官が遣いから戻ってきた。
「ただいま」
 予想していたとはいえ、あまりにだらけた雰囲気に彼女は溜息をついた。確かに暑いけれど、いくらなんでもこれはないのではないか?しかも、どう見ても上官が率先してだらけている。
 まぁこれだけ暑いのだ。ほんの少しの涼が、皆のやる気を出すきっかけになるのなら・・・と手にもっていた土産を見えるように持ち上げる。
「アイスクリーム買ってきたから、少し休憩にしましょう」
 おー、と低い歓声を上げながら、男どもがリザの元に集まってきた。確かに暑い、いや暑苦しい。
 それぞれアイスクリームを手にすると、席に戻ってその涼を楽しむ。

「食べ終わったら、ちゃんと仕事してくださいね」
 積みあがった書類を見ながら彼女が上官にそう伝えると、アイスクリームをもらったからなのか、それとも美人の副官が帰ってきたからなのか、嬉しそうな顔をして黒髪の上官は頷いた。

(2007.07.13)

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毎日湿度が高くて嫌ですね。(in 東京)
でも私が小学生の頃は扇風機は教室にありませんでしたよ。
中学の頃も、冷房がある教室とない教室があったなぁ。
あ、大学も古い校舎にはなかったよ、確か。今は完備しているだろうけど。


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