白い世界は涙色

窓の外は白い世界。
空からは砂糖のような粉雪が舞い降りて、人々を喜ばせていた。
いつもなら雪かきの対象でしかない雪も、今日だけは必要なパーツだ。
そう。クリスマスという名の記念日の…。









去年のこの日は、サボリ癖のある上司と残業クリスマスを楽しんだ。
「楽しんだ」とあるのだから、もちろん上司はわざと仕事を溜めていた訳で、有無を言わせず上司は私を執務室に縛り付けることになった。

「本当はこんな仕事場より、クリスマスムードの漂った屋外でデートしたかったのだがな。」

そう言ってハハハと笑う貴方に、私は戸惑いと不安と期待を胸に抱く。
だがそんなことはもちろん顔に出さない。
常に無表情で、副官というスタイルを崩さずに、私は貴方の真意を窺う。

「今日デートするはずだった女性が風邪でもひかれましたか?」

「そんな訳ないだろう。元々からこの日は空けていたんだよ。一番愛しい君とこの日を過ごしたかったからね。」

そう言ってあっという間に書類を終わらせ、いつの間にか執務室をクリスマスっぽくデコレーションしていた貴方。
そんな貴方に、私は急に嬉しいような恥ずかしいような照れくさい気持ちになり、その場から逃げ出したくなった。

「ご冗談は程々になさってください。それよりこんな事のためにわざわざ仕事を溜めていたのですか!」

「そうさ。何か悪いか?」

そう言って出口を塞ぐようにしてドアの前に立つ貴方。
その行為に私は観念し、クリスマスパーティとやらに付き合うことになった。

「中尉、ほらシャンパンを開けて。」

「はい。」

「中尉、ケーキのろうそくに焔を点けたぞ。ほら、吹いてみたまえ。」

「遠慮します。」

「いや、君が吹くんだ。自分で火を点けて自分で消すなんて虚しすぎるじゃないか!」

「…分かりましたよ。」

嫌々ながらを装いつつも実は内心嬉しくて、私はいつの間にか副官というスタイルを崩してしまっていた。
そんな私に貴方は戸惑うこともなく、爽やかな笑顔で微笑みかける。
その優しい微笑みに、私の心がドクンと大きく揺れたのは今でも覚えている。





そういえば、あの頃からだっただろうか…。
いや、もっともっと昔だ。
貴方と出会ったその瞬間から私は貴方に何かしらの感情を抱いていた。
憧れ、尊敬、魅力、そして少しばかりの可愛さ…否、そんな一つ一つの言葉では表せないほどの深い感情を…。
なのにそれがいつの間にか異性へ対する『恋愛感情』に変わってしまっていた。
自分でもわからないほどに、そして恐ろしいほどにいつの間にか…。








窓の外は白い世界。
空からは砂糖のような粉雪が舞い降りて、人々を喜ばせている。
そんな風景から私は目を背けると、窓から少し体を乗り出し、空から降ってくる雪をそっと掌に乗せる。
でもやっぱり期待は捨てられなくて、私は人混みの中を目を凝らして探し始めた。


昔の甘い思い出の余韻に浸りながら…


来るはずもない貴方を待ち焦がれながら…


私はずっとずっと貴方を待ち続ける。


『愛しています』


その気持ちをひたすら胸に抱きながら…。





















いま、掌の雪が水滴へと変わった。













end.


---------
"coffee break"のmaiさまより。
「アイ→ロイ」で1000hitキリリクさせていただきました!
素敵なお話、本当にありがとうございます♪
maiさまの名誉にかけて追記させていただきますと、原作が冬なのにあわせて冬の設定だそうです。
まさか1000hit踏むと思わなかったので、600hitで無理やりキリリクお願いしなくても良かったなぁと思ったり。
そして、前回に引き続きさらに2000hitを踏んでしまった私… 別に狙ってませんから!!(汗)
close