anniversary
職場のカレンダーを見ながら、おもわず微笑む。そういえば、もうこんな日だった。 小さなことだけれどどうしても忘れらない、大切なあの日。 その日、リザの買い物メモにはびっしり書きこまれていた。父の新しい弟子がこの家に通うようになってから、食材の消費が一気に増えたためだ。部屋にこもりきりの男と幼い少女の二人暮しでは、消費する量もたかが知れている。そこに入った食べ盛りの弟子の存在は、非常に大きかった。 自宅から街までおよそ3km。メモに書かれた物は10歳の少女が持って歩けるような量ではない。 (・・・でも、私しかできる人がいないから仕方ないよね?) 父に手伝ってくれとはとても言う勇気がなかったリザは、あきらめて家を後にした。 街について次々と買い物をこなす。そう頻繁にこられるわけではないから、長く置けるものを大量に。乾物は軽くて良いものの、缶詰、根菜等はかなりの重さになる。メモに書かれた物を全て購入する前に、すでにリザが持つことのできる量の限界に達していた。これを持って、また自宅までの道のりを歩かなければならないのだ。 ふぅ・・・と思わず溜息が出る。 そのときだった。 「あれ・・・?リザちゃん・・・だよね?」 振り返ると、そこにはこの買い物の元凶となった男が立っていた。 「今から師匠の家に行こうと思っていたんだけど・・・、買出し?」 相手に悪気はないことはわかっていても、思わず睨みつけるような目で見てしまう。 「自宅にある食材が、ほとんど無くなってしまったので」 イヤミをこめて言った台詞だが、相手に伝わったかどうかは微妙だった。 「俺もお世話になるってるんだし、手伝うよ」 言うが早いか、彼はリザの持っていたものを軽々と持ち上げた。 リザは驚いた。男の人というのは、こんなに力のあるものなのか? 考えてみればリザの周りの男といえば父と学校の同級生くらいで、こんな年の離れた男性と一緒に歩いたことなど一度もない。 そう思った途端、急に恥ずかしくなり、荷物を奪い返す。 「大丈夫です。これくらい持てます。だから先に家に向かっていてください」 そう告げると彼は困った顔をした。 「これ全部持って帰れるの?」 「なんとかなります」 「かなり重いよ?」 「だって・・・マスタングさんに手伝わせたら、父に怒られます」 ――それに恥ずかしいんです、年上の男性と一緒に買い物するなんて。 口にはしなかったが、顔には出ていたのかもしれない。彼はぷっと吹き出すと、もう一度荷物をリザから取り上げた。 「こんな重い荷物を持っている君を放って俺だけ先に師匠の家に行ったら、それこそ何を言われるかわからないよ。怒られるというなら、一緒に怒られてあげるから。だから、ほら。買い物、全部終わったの?」 年上の男性と一緒に買い物するなんて、なんだか恥ずかしい。おまけに荷物を持たせるのは申し訳ないけれど、でも。 「これもおいしそうだよ。買わない?」 楽しそうな様子の彼を見ていると、先ほどまでの憂鬱な気持ちは消えていて、いつのまにかリザ自身も彼との買い物を楽しんでいたのだった。 ふと思い立って、自分のデスクのカレンダーに花の印をつけると、リザは微笑む。 「今日は何かあるのか?」 そんな様子に、上司が声をかけてきた。 「ちょっとした私の記念日なんです」 「何の?」 「買い物記念日」 「買い物・・・?」 怪訝そうな顔をしている上司ににっこり笑いかけると、リザはもう一度カレンダーを見つめた。 それ以上は内緒。 だって、あなたを初めて男性として意識した日だから。 (2007.6.13) --------- 初ロイアイ文です。 というか、小説(?)書いたの自体が5,6年ぶりですので、リハビリです。 お見苦しい点も多々あるかと思いますが、どうぞご理解くださいませ。 読んでくださってありがとうございました。 |