親友と上官と私と
(本誌最終回後の話です。ネタバレはないとは思いますが、気になる方はお控えください)





























「大体、女性の首にこんな大きな傷をつけるなんて、失礼しちゃうわよね!」
 雑然とした昼休憩の食堂で、もうずいぶんと前の出来事について親友は憤慨していた。
「向こうだって致命傷を与えるつもりだったんでしょうから、仕方なんじゃない?」
「よくそんな悠長なこと言ってられるわねぇ!」
 男性の低い声が多いこの食堂で、女性の声はそんなに大きくなくても響く。知られなくても良いことをむやみやたらと知られるのは恥ずかしいから、と目の前の親友を落ち着かせるため静かに答えたつもりだったが、火に油を注いでしまった。
「女性にとって、見た目は重要なのよ!とくに首なんてそう簡単に隠せやしないじゃない。ドレスだって着られないわ!」
 立ち上がりかねない勢いで捲くし立てる親友を、「ちょっと」と小突く。実は背中にはもっと大きな刺青が、なんて口が裂けてもいえない。
「ドレスなんて着る機会もないし、軍人なんて職についているんだからそれくらいの覚悟はできてるし・・・」
「甘いわ、リザ。そんなこと言ってるから、いつまで経っても浮いた噂の一つもないのよ!」
 あらぬ方向に話題を持っていかれ、面食らう。
「リザはそういうところに疎いけど、女性にとって大きな傷は、お嫁にいけるかどうかの大きな問題よ!」
 スプーンを握り締めて語りだす親友に、私は溜息をついた。
「別にお嫁にいけなくても構わないし・・・」
 それは、本心だ。むしろ結婚なんか一生縁がないだろうと思っている。私がそんな風に考えているのは今に始まったことじゃないし、親友自身もとっくに知っているはずだろうに、彼女は事あるごとに結婚しろとうるさい。なんだか一昔前の上官とその親友を見ているようだ。
 本音を言えば、別に結婚したくないというわけじゃない。機会があるなら、もしそういう幸せが許されるのならと思うことだって、まったくないわけではない。けれども、それは私にとってあまりにも非現実的なことであり、そのために何か努力をしようとは思わない。
「そもそも、そんな危険な場所に結婚適齢期の女性を連れて行く方が間違ってるわ!」
 そんなことを考えているうちに、いつのまにか怒りの矛先が変わっていた。明らかに彼女の視線は、私の隣に座ってやはり昼食を取りながら静かにやり取りを聞いていた我が上官に向かっている。
「ちょっとレベッカ、准将は関係ないでしょう!」
「いいえ、関係大ありよ!」
 慌てて止めるも、彼女の怒りはそう簡単に収まりそうもない。
「もちろん腹心の部下だからとか理由はあるんでしょうけど、どう考えたって人間同士の戦いじゃないじゃない!そんな危険なところに、普通大切な女性を連れてきます?」
「まぁ、普通は連れてかないだろうな」
「レベッカ!」
 言いがかり的な疑問にのんびりとした口調で応える上官にはらはらしながら、親友を窘める。
「そうよね、普通じゃないわよね!」
 この状況に耐え切れず彼女を止めようと立ち上がりかけたところで、親友の表情が変わった。
「普通じゃないなら、責任くらい取ってくれますよね?もうお嫁にいけないですよ、この子」
 まぁ元々いく気もなさそうだけど、と付け加えて、彼女は食事を終えた上官に告げる。いったい何の話だ。
「ちょ、ちょっと・・・」
「もちろん」
 その豹変振りについていけないうちに、今度はトレーを持って立ち上がった上官が応える。
「責任は取るつもりだ。もっとも、そんなことは君に言われるよりずっと前から決めていたんだがね」
 親友に向かってにやりと口角を上げると、何事もなかったかのように食器の返却口に向かう。呆然と見送って、ふと気づいて振り返れば、そこにはしてやったりという親友の顔。ひょっとして謀られた?
「やっぱりリザは何の心配もいらないのよねぇ、わかってたけど」
 私がまともに反応できるまでの数秒間、彼女は頬杖をついてニヤニヤと私のことを眺めていた。



(2010.06.14)


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本誌最終回掲載直後にブログに掲載した文章です。こんな近未来話もありかなと。

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