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Eisenbahn-Lust Walzer
タタンタタン タタンタタン 線路の継ぎ目を車輪が奏でる。 タタンタタン タタンタタン 絶え間なく続くその音を聞きながら、リザは深くため息をついた。 西部へ出張する上司の護衛は前々から計画されていたものであり、そのために汽車で長旅をしなければならないのは、予定通りであって何の異存もない。 出発予定日の前日朝になって「早めに到着するように指示が出たから、今日のうちに夜行で出発する」と言われ、慌てて帰宅し、夕方私服でその上司――ロイと汽車に乗り込んだことも、多少慌てたものの十分誤差範囲であった。 通された客室を見るまでは。 シングルベッドが2台(しかもなぜか並べてクィーンサイズベッドのように設置されている)に、ナイトテーブル。大きな窓の側には小さなテーブルと座り心地の良さそうなチェアが2つ。さらにそのテーブルにはウェルカムドリンクとして1本のワインとグラスが2脚置かれている。 ……おおよそそれは、通常の寝台客室とはほど遠いものであった。 『たかが出張に、馬鹿ですか、あなたは！』 いつもならそう一喝してたしなめるところであるが、リザは喉まで出かかった言葉を慌てて飲み込んだ。見るからにここはスイートルームであり、おまけに2面窓の部屋は――つまり最後尾は列車に一ヶ所しかないはずである。いくらシーズンオフの平日半ばとはいえ、値段は明らかに庶民が気軽に取るようなものではないだろうし、第一部屋を押さえるのだって困難であろう。それを彼はわざわざ押さえてくれたのだ、おそらく自分のために。 「何か言いたげだな」 目線をロイの顔に向けると、自然と目が合った。 なんとか飲み込んだ言葉はこの場には相応しくないが、かといって他に場に相応しい言葉も見つからなかったリザは、口をあけたまましばらく声を発することができなかった。 「いや、特等車はもうここしか空いていなかったんだ。出張には豪勢すぎるが、君の誕生日を迎えるにはこのくらいの部屋でもいいだろう？」 日々の忙しさにかまけてすっかり忘れていたものを、彼は覚えてくれていたばかりでなく、忙しい中こんな準備までしていたのだ。 口をぽかんとあけたまましばらく動けないでいたリザは、ふと我に返ると、ため息を一つついた。 「あぁ、言っておくが、到着をせかされたことは嘘ではないからな」 呆れのため息と勘違いしたのか言い訳を付け加える彼は、少し焦った様子を見せた。そんなつもりは毛頭なかったけれど。 タタンタタン タタンタタン 「…ありがとうございます」 いつもより素直な一言は、汽車の音にかき消されそうなくらい小さな声しか出なかったけれど。 タタンタタン タタンタタン けれどもその声が相手にしっかり伝わるほど、いつもよりもずっと側に寄り添っていた。 (2008.05.22) -- タイトルはヨハン・シュトラウスⅠ世『鉄道の愉しみ』より。 でも藤丸、この曲知りません(汗) ヨハン・シュトラウスⅡ世の『観光列車』は知ってるけど。 きっと陽気な曲…のはず? 一周年記念作品です。 |