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<ロイアイ>
■気づかない君へ2【side female】
■気づかない君へ2【side male】
■飲み物はいかが
■花を贈る
(お題:COUNT TEN 様)


<ロイアイ>

■気づかない君へ2【side female】
【うしろすがたを】業務終了を告げるベルとともに笑顔を振り撒いていそいそと出かける彼の姿は見慣れたもの。今日も今日とてデートに出かける彼に私は黒いコートを羽織らせ、その背を黙って見送る。いつもと変わらぬ毎日なのに心が少しだけツンと痛むような気がするのは、きっと気のせい。

【絶対に言えない】今の私が15の少女の心の機微に簡単に気づくように、昔の私の淡い憧れは年上の彼にもそれを傍観していた父にもきっと気づかれていたに違いない。あれから長い時を経て環境も立場も変わり、それでもなお想い続けているという事実は、絶対に知られてはならない大人の秘密。

【無神経な貴方】「目の下に隈ができているね」二人きりの職場の個室で、そう言いながら近づいて顔に触れようとする上司。「誰のせいだと思っているんですか」残業の恨みにかこつけて、赤面したのがばれないように顔をそらす。無意識の行動ほど、心揺さぶられるものはない。

【思いだすのは】膝の上で甘える愛犬を撫でてやると、気持ちよさそうにおとなしくする。子犬ならではのやわらかい黒毛の触りごこちに、私も癒される。梳きながらふと頭をよぎったあの黒髪は、果たしてどんな感触なのだろうか。決して触れることのない髪のやわらかさを想像して、一人苦笑いした。

【道程】彼の夢を追い始めてから10年。その約半分は彼と共にあり、そして先の見えぬ果てしない道程をも彼と共に歩んでいくと決めた。そこに必要なのは愛情でなく、忠誠心。それでも彼を守り、そばで支えられるのであれば、たとえ棘の道でもかまわない。


■気づかない君へ2【side male】

【うしろすがたを】私室に呼び立てた二人の部下が、部屋を出て行く。「荷物持ちますよ」「大丈夫よ」「いや、俺、手ブラですから」「そう?ありがとう」目の前で交わされる他愛もないやりとりに上司である私の入る隙はあるはずもない。私室の扉が完全に閉まるまで、そのうしろ姿に嫉妬した。

【絶対に言えない】「どんなタイプの女性がお好きなのですか?」酒の席で彼女に聞かれた、何気ない質問。ブロンドにヘーゼルの瞳、頑張り屋で少々頑固者で、でも根は優しくて…目の前の彼女を見ながら羅列する。だが本人に言えるはずもない。まっすぐな視線を交わしながら言い紛らした。
*(おまけ) 宴も酣、盛り上がるは恋話。「アンタ初恋なんか昔過ぎて覚えてないとか言うんでショ?」煽る部下達に酔いに任せて反論する。「そんなことはない!ブロンドにヘーゼルの瞳…」気づけば彼女に集まる視線。「…髪はショートで11歳だった」途端に和らぐ雰囲気に、私は冷汗を流した。
*(おまけ2) すっかり酔いの覚めた帰り道、千鳥足の彼女と二人夜道を歩く。珍しく荒れた彼女、「どうせブロンドとヘーゼル以外は似ても似つかないですから」と口を尖らす。脈絡のない話に思い当たるは先の初恋話。幼い頃の自身に妬く幼馴染みの可愛らしさに、素知らぬ顔で彼女の手を引いた。

【無神経な君】普段は「余計な詮索をされないように」と絶対に三歩下がって歩くくせに、執務室に入ると気が緩むのか心做しか距離を縮める彼女。無意識なのだろうが、書類を渡すとき、コートを着せ掛けてくれるとき、心労を心配されるとき、触れるほど短くなる距離には恋情を見透かされそうで参る。

【思いだすのは】仕事の一貫で歓楽街にはときどき顔を出す。店の女の子たちは皆かわいらしく、こちらも笑顔を振り撒く。だが所詮は仕事、心から癒されることなどない。店を出る度に満たされぬ心に思い浮かぶのは、彼女の笑顔。逢いたい欲求との闘いが始まる。

【道程】二つ夢がある。一つは国のトップに立ち国民の幸せのために国を根底から立て直すこと、一つは幼い頃から知る彼女を幸せにすること。優先すべきは当然前者、後者に到っては相手は私でなくても良い。だが気づくと後者への道程を模索している自分がいることは、彼女には絶対に知られてならない。


■飲み物はいかが

【目覚めの一杯 】寝ぼけ眼のままボーっとしていたら、執務机に水のたっぷり入ったグラスをドンと置かれた。「おはようございます、水をどうぞ」と告げる君の笑顔はずいぶんと硬い。この水は君の優しさなのか、それとも早く目を覚ませという怒りなのか。業務中のうたたね後の悩みは尽きない。

【水分補給】 真夏の野外訓練。炎天下での制服着用のせいか、暑さにやられて頭がぼぅっとしてくる。さすがにマズイ――と思った矢先に与えられた首もとの冷感、振り返れば水のボトルを手にする上官。体調管理すらできていない自分に反省しつつ、冷えた水と温かい心遣いを存分に堪能した。

【tea break】終わりの見えないデスクワークにもそろそろ飽きて、伸びを一つ。そのタイミングを見計らったように、扉を叩く音が鳴る。入室を促せば、広がる珈琲の香り、「お疲れ様です」と労いの言葉、彼女の微笑。少しでいいから触れて五感を満たして欲しいというのは、男の密かな願望。

【コーヒー VS 紅茶】あちらはコーヒー、こちらは紅茶…休憩時間に同僚に淹れる飲物には気を遣う。一番気を遣うのは直属の上司、体調と気分に合わせて私が選ぶ。疲れている時はミルクたっぷりの紅茶を、シャキっとしたい時は濃い目のコーヒーを。満足気に飲む表情が、私の活力の源。

【眠れぬ夜に】トラブル発生で、職場で泊り込み業務が続く。仮眠を取れと言われたが、緊迫した状況に興奮してちっとも寝付けそうもない。ひたすら仕事に向かう私の前に、「飲みたまえ」と置かれたほんのりラム酒が香るホットミルク。上司のそっけない言葉が妙に心に染みて、少し休めそうな気がした。


■花を贈る

【は 花屋初体験】「好きな子に贈るのかい?」誕生日にと慣れない花屋で必死に花を選んでいたら、店のおかみさんに訊ねられた。口ごもると、彼女は「どんな子?」と聞きながら選別した草花を形にしていく。瞬く間にできあがった黄色い小さな花束は、気になる少女を連想させた。

【な 泣き虫な君へ】父親に理不尽なことを言われ家を飛び出した少女は、一人河原で泣いていた。そっと近寄ると、彼女は慌てて目を擦って涙を隠す。声を掛けようにも勝手がつかめず、代わりに傍に咲く小さな花を髪に挿してやると、彼女ははにかみながらも微笑んだ。ほら、今泣いたカラスがもう笑った!

【を 乙女心を】どんな女性でも誠意を持って花を贈れば、多少なりとも乙女心を擽ることができるとわかったのは、もう大分前のこと。以来デートに花は欠かせない。だが本当に欲しい彼女の心だけはどんな花を贈っても掴むことができない。彼女に花を愛でる心がないはずはないのに。

【お お詫びにと言い訳】デスクワークに飽き、人目を盗んで市内視察と称しこっそり職場を抜け出した。調子にのって歩き回り、気づくと日が傾き始めている。まずい、と咄嗟に思い浮かぶは補佐の彼女の怒り顔、思わず眼前の花屋に飛び込んだ。効果はあまり期待できないが。

【く 口に出せない】エスケープから戻れば、案の定彼女は鬼の形相。さすがにうまい口上もみつからず素直に「すまなかった」と小振りの花束を渡すと、彼女はきょとんして受け取るも、次第に眉間に皺が寄る。やはりダメかと思ったら、彼女の頬がうっすらと紅い。意外な結果に口元が緩んだ。
*(おまけ)  山積みの書類を残してデスクワークから逃げ出した上司は、終業時間ギリギリに戻ってきた。爆発寸前なのを耐えていると「すまなかった」と目の前に差し出される、小振りのかわいらしい花束。素直に嬉しいなんて口に出せず、「こんなものじゃ誤魔化されませんからね!」と眉間に皺を寄せた。

【る 留守電に花束】仕事から帰宅すると、自宅前に花束が無造作に置かれていた。昨晩の恐怖と緊張で失念していたが、彼からの電話は花を処分して欲しいという用件だったと思い出す。断ったはずの花々は一晩経ってもしおれる気配がない。その頼もしさは私を守ってくれそうで、私はそれらを抱きしめた。

(2010.07.25〜2010.10.21)



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