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<ロイアイ>
■切ない恋のお題 (お題:COUNT TEN 様)
■発熱シリーズ
■その他


<ロイアイ>

■切ない恋のお題
【残り香】いつもは残業に持ち越す業務を定時に終わらせ、手帳を確認つついそいそと帰宅の準備をする上司。私は何食わぬ顔で彼にコートを着せ掛け、「お気をつけて」と送り出す。今夜はどこぞの女性とデートか。一人しかいない執務室は妙に広く静寂で、我知らず彼の残り香を求めていた。

【振り向かない背中】彼の背中を守る、それが私の仕事であり、意思であり、使命。彼は後ろを気にせず、まっすぐ前だけを見て進めば良い。それが最善だとわかっているのに、どこか振り向いて欲しいと願う女の自分が、浅ましい。

【消えた夢】幼い頃は単純に、傍にいる憧れのお兄さんのお嫁さんになるのが夢だった。けれどいつかそれは叶わないものになり、別れ、再会を経て、それでも今も傍にいる。恋愛感情抜きで彼を一生支えられる存在であればよいと思っているのに、未だに彼の言動の端々に期待を捨てきれない自分が情けない。

【空知らぬ雨】「…雨が降ってきたな」葬儀後、親友の墓標の前で貴方がつぶやいた。空知らぬ雨は、彼の心を映してぽつりぽつりと降り注ぐ。私の傘では今の貴方を雨から守ることはできない。世の無常を感ずる貴方がせめて冷えぬようにと、ただ心配るのみ。

【水の月】夜の公園で白い睡蓮を見つけた。池の水面にたゆたうその花は、月の光を一身に浴びて輝いている。だがどんなに月に焦がれても、水を離れて月に手を伸ばすことはできない。まるで過去に縛られて傍にいながら身動き取れぬ自分のようだと思うと、その花からしばらく目が離せなかった。


■発熱シリーズ

*仕事に忙殺されているうちに体調を崩してしまった。強制的に休まされ、意識してゆっくり過ごせば、不思議と心も穏やかになる。愛犬の黒毛を撫でながら、忙しくて気づかなかった同じ黒髪の上司の些細な心遣いをふと思い出して一人笑む。明日はいつもよりほんの少し優しくできるに違いない。

*彼女の顔色が悪い。数日前から機嫌もあまり良くなかった。かなり具合が悪そうだが、それを理由に休むような彼女ではない。その都度休みを要求されても困るが、今日ばかりは恨まれても休ませねば。男ばかりの職場で対等に働いていても、彼女が女性という事実は変えられないのだから。

*職場で熱を出した上司に肩を貸して、家まで送り届けた。何とか着替えさせてベッドに寝かし、濡れタオルを額にのせ、いつでも水分補給できるように水とグラスを用意する。私にできるのはここまで、そろそろお暇しなければ。赤い顔でときどきうなされる彼の様子を見つつ、腰の上がらぬ午前0時。

*ひんやりとした感覚に、朦朧とした意識の中で瞼を開く。薄暗い部屋の中で目に入るのは見慣れた寝室の天井、額にのせられた濡れタオルの端、そして心配そうな彼女の顔……?夢境の私は彼女に一晩中介抱してもらえるのか。夢の中の自身に嫉妬しつつ幸せに浸りながら、再び瞼を閉じた。

*窓から差し込む朝日に覚醒する。昨晩の朦朧とした感じとだるさは消えたようだ。だが体は軽いが、腹が重い。左手も動かず、右手で体を起こしたところで目に入ったのは、私の手を握りベッドに突っ伏す部下の姿。夢ではなかったことに驚嘆し、その冷えた体にそっと上着を掛けてやった。

*寝言に自分の呼び名が含まれて、どきりとする。熱に浮かされているだけと分かっているのに、彼の口から漏れる己の名はどうしてこんなに私の心を揺さぶるのか。その名が階級呼びに留まることを祈りつつ、すっかり温まってしまった額のタオルを取り替えた。

*寒い寒い寒い。砂漠の最前線、女性用にあてがわれた天幕の中で毛布にくるまる。支給される物品にも限りがあり、満足に暖まる手段もない。高熱に苦しむ私だが容赦なく呼び立てられ、渋々従えば連れていかれたのは旧知の上官の天幕。提供された寝床と心の温かさに申し訳なさと嬉しさと、複雑な想い。



■その他

*男独りの引越など容易いものだと軽視していたが、いざ準備を始めてみるとなかなかに大変な作業だった。私物管理のいい加減さはいちいち箱詰めの妨げとなり、資料をひっくり返せばあちらこちらからメモ書き落ちてくる。このままでは己れより私をよく知る彼女に泣きつく羽目に陥るか…

*年末の浮かれる時期、立て続けにデートかと思いきや執務室に篭る上司。積みあがる決済済み書類に不思議に思って問うてみれば、「そんなにデートばかりしているイメージか」と苦笑い。「たまには部下を労おうと思ったんだが」逸らされた視線とほんのり紅い耳に、白を切るのは難題かもしれない。

*週明けから都心に異動する親友と最後のランチ。「いいなぁ、栄転」「私は田舎の方が落ち着くわ」的外れの親友の返答に私は笑う。「違うわよ、私が羨ましいのは」栄転なんて目ではない。羨ましいのは公私共に必要だからと異動先に当たり前のように連れていってくれる、上司の存在。

*珍しく、一人汽車で遠方への出張。心には何ものにもとらわれない気楽さと、傍らに守護対象のいない物足りなさと。明日には戻るというのに、往路の今から寂しさが込み上げてくるのは、きっと気のせい。(RR)

*家族と共に過ごす者に休暇をとらせるため、家族のいない私にとって大晦日の宿直は恒例行事。時間を見計らって執務室の窓を開け、時計台の12時を告げる鐘と新年を祝う街の賑やかな声を聞きながら、同じく毎年宿直を引き受ける上司と二人静かに新しい年を祝うのが、私のささやかな贅沢。

*事件の処理で32時間勤務。寝不足で仮眠室に行ってみれば生憎と満室、だが帰宅する元気はなし。諦めて執務室に戻ろうとしたとき、後から来た上官に腕を掴まれ佐官用の仮眠室に連れ込まれた。「寝ろ。使い物にならん」先にベッドの端に転がり背を向けて寝入る上官の無骨な優しさに、涙が出た。

*職場の執務机の、引出しの奥に封書が挟まっていることに気づいた。引っ張り出してみれば、封の空いた軍内便用の封書。中身は空だが、おそらく愛娘の写真が入っていたに違いない。数ヶ月前にそれを寄越した今は亡き差出人を想い、溢れそうになる哀しみをこらえた。

*住宅街で白昼堂々起こった殺人事件に、厳重警備と捜査協力が要請された。一般人被害者についての報告書に、上官が「気の毒に」と顔を顰める。「…こんなこと言えた義理ではないんだがな」ぽつりと加えられた一言に顔をあげれば、その苦悩の表情に居た堪れず、私は俯いて静かに首を振った。
(2010.10.25〜2011.1.12)



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