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<ロイアイ>
■その他
<ロイアイ>
■その他
*炎天下での作業、拭っても拭っても落ちてくる汗。暑さで無防備に空けたYシャツの胸元にきらりと光る水滴に、普段はあまり見えないワイルドさを感じ、ごくりと唾を飲み込む。
*通り雨に近くの店の軒下に身を寄せる。一気に降りだした雨は、滴り落ちるほど私たちの髪を濡らした。そのうっとおしさに髪を掻き上げる隣の彼の仕草があまりに色っぽくて、取り出したハンカチを渡すのも忘れて見入ってしまう。視線が重なり我に返って熱くなる頬、どうか気づかれませんように。
*急用のために隣家から借りてきた自転車をすぐに返すのが惜しくて、いつも世話になっている少女を誘って少しだけ遠乗りに出た。サイクリングを楽しんでいたところにさぁっと雨が降ってきたが、濡れたまま走るのがまた気持ちよくて、まるで幼な子のように二人で笑いあったのはいつのことだったか。
*心惹かれて買ったにも関わらず機会を逃して一度も着ていなかったワンピースに、囮捜査のため袖を通す。髪を巻き、ふわりと広がるスカートに高めのヒールでお嬢様を演ずれば、相手役の上司が「似合ってる」などと手を取るものだから、まるで本物のデートの様で使い物にならない。ああ、困った。
*夜中にお腹が張って苦しんでいたら、偶々起きていた父のお弟子さんが声をかけてくれた。残っている課題はそっちのけで私をベッドへ連れて行き、脇に座ってお腹をさすってくれる。「ゆっくりおやすみ」お子様扱いに恥ずかしいやら悔しいやら、それでも断り切れず夢現でその温かさを享受する。
*ごく稀にふと親友の生前時代を思い出して、沈鬱になる。生きているものの勝手な感傷と思いつつもしばらく引きずっているのを、きっと気付いているのだろう。出される珈琲の少しばかり甘いのに彼女の想いを知り、縋るように啜る。
*夏休みをとれといわれて、忙しい最中3日間だけ休暇をとる。休みがとれたらあれもしたいこれもしたいといつも考えているのに、いざ休暇になってみれば何もする気にならず、一人家に籠る生活はぽっかりと心に穴が開いたよう。日常が恋しい。
*珍しく人前で酔った部下を家まで送る道すがら、階級呼びが常の彼女が酔いに任せて嬉しそうに名前で呼ぶものだから、置いて帰るに帰れぬ23時。
*ずきずきと痛む頭に身体中が軋み、目を開けるのさえ億劫で仰向けに寝返りを打てば、少しばかり冷えた手が額に触れる。そのひやりとした感覚が気持ちよくて、また深い眠りに誘われていく。離れてくれるなよ、と思いながら。
*頬を膨らまし口を尖らせて、幼い子供のように怒る君の顔があまりにもかわいいものだから、対抗する気も失せてつい笑ってしまいそうになるのを堪える、午後の一齣。だって笑ってしまったら、君、ますます怒るだろう?
*残業帰りの見上げた空、月のあまりに綺麗なのに後ろを歩む彼女に声をかける。些細なことでも共有し、共感しあえる幸せが、我々にも存在することを嬉しく思う瞬間。
*彼と食事をする。若い男女が二人、けれども洒落たお店でもなければ、エスコートも、甘い言葉もない。ただ余計な遠慮も気遣いも要らないこの関係は、いつも彼が連れ歩くどんなデート相手よりもずっと彼に近くて、私は心の中でひっそりと慢心する。
*起きしなに梳いた髪の短さに 嬉しくもあり悲しくもあり
*思い描く印象と違う鏡の中 嬉しくもあり悲しくもあり
*伸ばす時もなんとなくなら、切る時もなんとなく。落ちた髪の量に時の長さを感じて少し物悲しくなったが、鏡の中の人はまるで昔に戻ったようで、なんともおかしい。時代は変わる、ざっくり切られた少年のような髪に、初心に戻ることを決意する。彼を支える、それだけを誓って。
*残業中、珍しく窓辺にいた彼女がふと髪をかきあげた。彼女が見ているのは外の様子ではなく、窓の中の自身。外見の良しあしにあまり執着しない彼女だが、さすがにあれだけ髪を切れば気になるだろう。窓越しにあった視線に僅かに瞳が揺れ、本音が表れる。なぁ、私の為に髪を切ってくれたのだろう?
*Ver.1 「大佐、何やってるんッスか?」「ん?いや、ハンドクリームをだな…」「手荒れッスか?」「発火布は特殊な布だから手荒れがひどくてな。荒れた手で女性の肌を触るわけにはいかんだろう?」「……」
*Ver.2 「大佐、何やってるんッスか?」「ん?いや、ハンドクリームをだな…」「手のお手入れ?」「発火布は厚手だから、保湿性に優れているんだ。だから、こうやってハンドクリームを塗っておくとだな…ほら。蒸されて肌がつるつるになるんだ」「……」
*Ver.3 「大佐、何やってるんですか?」「ん?いや、ハンドクリームをだな…」「手のお手入れ?」「最近、"主夫"湿疹がひどくてな。やっぱり独身は家事を自分でしなければならないからな。痒くてたまらんから、こうやって発火布をつける必要がない時も絹の手袋で…(以下続く)」「……」
*秋の雨夜、予想外の寒さに震える自身の体を抱き締めるように抱え込む。朝はこんなに寒くなかったのにと、文句をいいつつ小さな折り畳み傘を開いていると、不意に首元にふわりと暖かさが舞い降りた。「冷えるからしていきたまえ」巻かれたストールから香る彼の気配に、体の芯から温まる。
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(2011.8.18〜2011.10.5)
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