Geburt--出産--
ロイは迷っていた。自分は部屋に残るべきなのか、否か、と。 陣痛が来た、と妻から連絡があったのは、昼休憩に入る頃だった。昼食をとるもとりあえず帰宅したロイは、数分置きにくる痛みに耐える妻の傍で励ましていた。戦場経験があり多少の痛みには顔色一つ変えない彼女ではあったが、子を産む痛みはまた特別な堪え難さがあるようで、苦痛を浮かべた表情がその痛みを物語っていた。 ストップウォッチとお腹の張り具合で様子を見守っていた産婆によると、お産はすでに九割方進んだようでようで、産まれるまであともう一息というところまできていた。その分痛みも増す。痛い、と一言も口にしないあたりはさすがであったが、痛みの波が来るたびに彼女のロイの手を握る力も確実に強くなっていた。 新しい生命の誕生まで、もう少し。そんなとき、ふとロイは考えた。果たして自分はこの場にいても良いものだろうか?出産とは女性の神聖な行いであるように感じたロイは、自分がこの場にそぐわないような気がした。男性であり、軍人であり、そして自分の意志ではないとはいえこれまで何人もの命を奪ってきた。そんな自分がいたら、この神聖な場を汚すことにはならないだろうか? しかし、すがりつくように握り締められた最愛の人の手を振りほどく勇気もなかった。これほどまでに耐え頑張っている妻の手を離すという行為は、現実逃避であり、そして何より妻への裏切りであるように思えたからである。今ここから逃げ出すことは容易だが、あとで後悔することにはなるまいか…? 複雑な表情をしていたのだろうか、痛みの合間に、 「ここにいるのが辛かったら、どうぞ遠慮なさらずに出ていらしてくださいね」 と彼女が言った。こんなときまで人に気遣う必要なんてないのに。しかしその一言でロイは吹っ切ることができた。今ここで妻の手を離してはならない。彼女は一つの生命を生み出すためにこんなにも頑張っているのだ。手を握ることくらいしかできないが、彼女がそれで少しでも不安を感じずにすむのであれば、自分にもなにか協力することができるのであれば、と覚悟を決めたのである。 やがて彼女が最後の力を振り絞って新しい命を誕生させたとき、ロイはなにか温かい不思議な気持ちに包まれたのだった。 -- 半実話だったり。 うちのダンナは出産時に立ち合いたくなかったらしいのですが、 あまりの真剣な雰囲気に分娩室からでていくことができず、 流れで立ち合い出産になりました。 まあ、確かに本格的な痛みが来てから約30分、 痛みにして約10回で産まれちゃったからな…。 「出ていっていいよ」と私が言ってから(嫌がってたのでちょっと心配だった) 本当に10分で産まれたし、 出ていく隙はなかったのかも。 結局感動してたからいいけど、 貧血で倒れでもしたら妻としてはたまらないですよね(苦笑) |