Nachgeburtsphase--産褥期--
一体、何で彼女はこんなに怒っているんだ? この状況がさっぱりわからないのだ。 今日は定時に仕事が上がった。そのままどこにも寄らずに帰宅したのだから、帰宅が遅いということもないはず。いつもと違うといえば、「赤ちゃんが見たい」という部下を連れてきただけで。それだって彼女と充分面識のあるヤツら――いわゆる東方時代から連れてきた連中に限ったのだ。 それなのに。 『何考えてるんですか、あなたは!』 開口一番出たセリフがコレ。 おまけに客までもが 『あなたたちもあなたたちよ!いくら誘われたとはいえ、こんな時間に上司の家を突然訪ねるのは非常識だと思わないの?!』 と怒鳴られる始末。 しまいには、彼女は怒って涙を浮かべながら、寝室に閉じこもってしまった。 何もこの家で食事を振る舞おうとかいうのではない。ちょっと子供の顔を見るだけ。時間だって決して非常識な時間だとは思わない。何をそう怒る必要があるのだ? 「…僕、あんなリザさん、初めて見ました」 フュリーが呟く。 「確かにいつもの冷静さの欠けらもないよな」 続くのはブレダ。言いながらも来客者達の一番後ろでハヤテ号の行動に細心の注意をはらっている。 「ひょっとして、いつも家ではあんな感じなんっスか?」 この中では彼女と一番親しいだろうハボックまでが、そんな疑問を投げ掛けてくる。 「いや、あんなに取り乱すことはめずらしいぞ!」 彼女をすぐにでも追い掛けたいのは山々だが、気心の知れた部下とはいえ来客者を放置するわけにも行かず――というより、なぜ彼女があんなに怒っているのか検討もつかず、私は柄にもなくその場でオロオロしていた。 「…ひょっとして、マタニティブルーってヤツですかね?」 ふとハボックが口にした言葉に、私はワラをもすがる思いで聞き返した。 「なんだそれは?というか、もう妊婦じゃないぞ!」 「マタニティブルー――所謂、『産後うつ』のことですな。出産時のホルモンバランスの変化で、出産前後に多々見受けられる軽いうつ状態のことです」 ファルマンの説明にはっと気付く。 そういえば、軍から帰宅したら、もう外は暗くなりかけているというのに家中真っ暗で、赤ん坊を抱きながらソファーに座りこんでいたことがあった。それに最近なんだか理不尽なことで怒られる。涙こそ見せないものの、泣きそうな顔をしていることも多々あった。 ただの育児疲れかと思っていたが、考えてみれば今までなら考えられない行動も多い―― 「ま、はやめに対処したほうがいいっスよ。俺の友達の奥さんが、医者にかからなきゃならないような本格的な欝になってましたから」 それは困る!思うと同時に、体が勝手に彼女の部屋に向かっていた。ええぃ、もう来客者はこの際放置だ。アイツらのことだから、勝手にするだろう。 「オレら、とりあえず帰りますからね!!」 玄関から聞こえるハボックの声にあぁと返事を返しながら、リザのいる寝室のドアノブに手を掛けた。 -- 戸締まりしないで、不用心ですね(汗) この時点での階級を決めてなかったので、 とりあえずフュリーには名前で呼んでもらいました。 (なんか『奥さん』というのもしっくりこなかったので) この後ロイはフォローできたんでしょうか? |