Libera me SAMPLE

 学校から帰宅したリザがまずすることは、郵便受けをのぞくことだった。決して毎日手紙が届くわけではなく、むしろ近頃では手紙の届く日のほうが少ないくらいだったが、たわいもない便りに紛れて稀に父宛てに生活の糧が舞い込んでくることもあるのでこれだけは欠かせない。日中外に出ることのほとんどない父が郵便受けを見ることなどないため、よほどのことがない限りこれはリザの日課だった。
 今日も、いつもどおりに郵便受けをのぞく。郵便受けの中には数通の封書が入っていた。リザはそれらを取り出し淡い期待をもって見たが、残念ながら生活の糧となりそうな仕事関係のものはなく、小さくため息をついた。今月もわずかな蓄えで何とか凌がなければならない。ただでさえ父の具合は日に日に悪くなっており、とても新たに外に稼ぎに出られる状況ではなかった。かといって病を治すために医者にかかりたくても、金銭的に難しい。以前父の蔵書がかなりの価値のものであると聞いたことがあるが、どんなに価値があろうとも手放す気がないのではまったく意味を為さない。学校をやめて自分が働けばだいぶマシになるだろうと進言したこともあったが、父は学問を営むだけにそれを良しとはしなかった。結局何の打開策もないままなけなしの蓄えを削りながら、清貧とは名ばかりの苦しい生活を送らなければならない日々が続いていた。
 リザはもう一度手にもった封書をパラパラとめくり、その中にふと見覚えのある字を見つけてどきりとした。Mr. Hawkeyeと書かれたそれは、決して綺麗ではないが独特の温かみのある文字。それは少し前までは一ヶ月に一回程度の間隔で定期的に送られてきていたもので、ときおり一緒に送られてくる自分宛ての封書を見ては心躍らせたものだった。だがそれも半年ほど前に途絶えており、すっかり忘れ去られたのだとばかり思っていたのである。





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