モテる男の行動習慣

【1】何ごともマメに行動する

「今日はマデリーン嬢の誕生日でな。デートだから何が何でも定時で上がるぞ」
 そう宣言したマスタングは、一日では到底終わりそうもないほど高く積まれた書類の山を定時までにきっちりすべて片付けて、帰り支度を始めた。同じ室内の部下たちはその様子をぽかんと口を開けて見つめ、ただ一人彼の副官のみが涼しい顔をして彼の支度を手伝っている。
「では諸君。君たちも早く帰れるように、せいぜい頑張ってくれたまえ」
 いそいそと出て行く司令官を一同は茫然と見送り、扉のパタンと閉まる音に各々我に返る。
「…大佐って、ホントにマメですよね」
 沈黙を破ったのは、意外にもマスタング組では一番下階級であるフュリーだった。年齢も階級も下である分、素直に気持ちを表すことができただけかもしれないが。
「何人もの恋人たちの誕生日を覚えていて、その度ごとに祝ってさしあげるなんて」
 確かに、と一同に頷く。今までごく当たり前のこととして受け入れてきた彼のフェミニストぶりも、こうやって改めて口に出すと、まるで偉業を成し遂げているかのようにも思えてくるから、不思議なものだ。
「誕生日を覚えるだけなら私も得意ですが、それを一人ずつ祝うというのは、確かにマメじゃないとできませんな」
 記憶する能力を買われてマスタング組みに選ばれたファルマンが呟いたのに、ブレダが同意する。ブレダ自身も、誕生日を覚えるだけならできると思っていたところである。ただ、それを一人一人祝うとなれば、話は別だ。大して好きでもない女の子の誕生日をわざわざ祝ってやるほど、残念ながら広い心は持ち合わせていない。
「マメさだったら、俺も負けてないぜ」
 そう声を上げたのはハボックだった。
「デートはできる限り約束するし、毎回ちゃんと花を贈ってる。デートコースだってバリエーション結構あるぜ。相談事だってかなり聞いてやってるし」
 ハボックは腕を組んで、自分でうんうんと頷いた。
 それに関しては、この場にいる誰にも異論はない。確かに彼もまた、女性に関してはマメだった。振られても誰かに取られても、しばらくすればまた新しい彼女ができている。相当マメにアプローチしていなければ、その度に彼女ができるということはないだろう。
 ただ、と一同は思う。
―――長続きさせる甲斐性がないんだよな。
 そう誰もが考えていることは、彼には伝わらない。
「こんなにマメなのに、なんで長続きしねぇかな」
 ハボックの疑問ともとれる呟きは、誰の返答も得られぬまま静かに消えて行く。
「このくらいマメに書類も処理してくれればいいのに」
 一部始終を聞いていたホークアイが溜息をつきながら誰にともなく呟いた一言に、周りはそれぞれの席に戻っていった。
 仕事の目途がつくまで、もう少し。どうせ司令官がいない職場でなんか、書類処理だって大して進まないのだ。彼らはそれぞれのアフタータイムを満喫すべく、仕事を再開した。
(2011.11.18)



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