モテる男の行動習慣

【2】 秘密を持つなど、謎めいた部分を増やす

 アメストリス軍において軍属の女性事務官はそれなりの数がいるが、女性武官となるとそう多くはない。まして東方司令部に限って言えば、事務官と武官とを併せたても、その人数はたかが知れている。そのため、女子更衣室に集う彼女たちは、階級関係なく和気藹々とおしゃべりに盛り上がることがある。
 そんな中でホークアイがいつも困るのは、己の上官に関する話題だった。

「マスタング大佐って、特定の彼女いらっしゃるんですか?」
「好きな食べ物はどんなものか、知ってます?」
「私服はスーツを着ていらっしゃるのをよくお見かけするけれど、ご自宅で寛いでいるときはどんな格好なのかしら?」

 もちろん全員が全員、本気でマスタングの彼女になりたいと思っているわけではないだろうが、やはり巷でも人気のある出世頭の彼のことは気になるようで、こういった質問は度々話題にのぼる。もしかしたら、軍属ならではの情報で優越感を覚えたいのかもしれない。きっと副官のホークアイだったら彼のことをいろいろと知っているとでも思っているのだろう、誰もが期待に満ちた目で彼女を見る。
 だが残念なことに、ホークアイとてそんなマスタングのプライベートなことをすべて教えられるわけではない。むしろ、答えられるほど知らないことの方が多い。いや、知らないというより、興味がないと言った方がいいのか。

「特定の彼女がいるかどうかは、わからないわね。複数の恋人がいることは豪語していらっしゃるけど」
「好きな食べ物ねぇ…何でも好き嫌いなく食べている印象よねぇ」
「ご自宅で寛いでいるときにお邪魔したことがないから、私服までは知らないわ」

 今のところ特定の彼女はいるような感じはないし、どちらかといえば甘党なのだろうなというのはお茶出ししていればわかる。寛いでいる時間のことなど、それこそ長年の付き合いだから昔のことを考えればなんとなく想像はついてしまう。きっと寝食を忘れていいかげんな格好で研究に没頭している時間が、彼にとって一番幸せな寛ぎの時間に違いない。
 けれども、はっきりとしないいい加減なことを言って誤った知識を植え付けてしまっても問題だし、なによりそんなことをうっかり教えてしまったら、当の本人が『イメージダウンになるようなことを言ってくれるな』と拗ねるに違いない。だから、ホークアイも答えようにも答えられないのである。
「ごめんなさいね、残念だけど私にもこれくらいしかわからないわ」
 そういった後で彼女たちが明らかにがっかりした顔をするのを見るのは、ホークアイとしても不本意であるが、こればかりは仕方がない。

「謎の多い男(ひと)なのよね」
「だからこそ魅力的なのかもしれないわ」
「そうよね、もっと知りたいと思うもの」

 決して本人たちが意図して行っているわけではないのだが、こうやって彼の謎めいた部分が増えていき、それがまた人気の糧となっていることを、ホークアイもマスタングも知らない。

(2011.11.23)



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