モテる男の行動習慣

【6】 女の子に相談されても、むやみにアドバイスしない

 マスタングが昼食を終えて早めに食堂から戻ると、閑散とした執務室でブレダがむすりとした顔をしながら自席でサンドウィッチにかぶりついていた。普段からニコニコとしている方ではないが、仕事以外でここまで難しい顔をしているのは珍しい。
「なんだ、そんな顔をして」
「なんてことはありませんよ。人がせっかくアドバイスしてやったのに、それを無碍にされただけで」
 マスタングはその珍しさに、思わずその原因を求めた。聞けば女性事務官に、上官のとの関係性について相談されたらしい。ブレダの頭が切れるのは東方司令部でもそこそこ有名な話だから、それをどこかで聞きつけたのだろう。
「そうやって、おまえはまた正論を突き付けたんだろう」
「だって、上官に問題があってそれが自分の内で処理しきれないのなら、きちんと上申するか、然るべきところに相談すべきでしょう」
 確かにブレダの言うことは正論だ。だが、きっと女性事務官の求めていた答えは、そうではないのだろう。
「女性の相談なんて、愚痴を聞いてもらって同情を得たいだけだ。リスクを負ってまで今の状況を打破しようなどとは考えていないから、適当にあしらっておけばいい」
「それこそめんどくさいですよ。嫌なら、努力すりゃいいのに」
 ブツブツと零すブレダに講釈をたれながらも、こればかりは経験しなきゃ理解できないだろうとマスタングは内心で思う。


 今でこそ女ウケが良いと言われるマスタングだが、学生時代はどちらかといえば堅物の部類に入るような男であった。
 人当たりはいいので周りからの評判は悪くはなかったが、如何せん女性の扱い方がなっていなかった。相手の話も聞くが、つい正論を語って論破してしまう。何気ない問いかけや、答えを求めていないような疑問にまでいちいち正論を語るものだから、女性側は興ざめ、うんざりすることも少なくなかった。だから仲間たちがマスタングを紹介する時は、「アイツはちょっとバカ真面目だから」という注意事項が必ず付け加えられるほどだった。
 そんな彼の短所を養母やその周りの女性たちは常々指摘していたが、彼は聞く耳を持たなかった。そんな彼の態度を変えたのは、とある女性とのデートだった。

 その日、マスタングは体調が優れなかった。本の読み過ぎによる睡眠不足と連日の厳しい訓練による疲労で数日前に発熱し、ようやく落ち着いた直後に訓練で無理に声を出したからであろう、喉をやられて思うように声が出なかった。本当ならば行きたくもないデートなど断ってしまいたかったが、紹介してくれた同級生も顔も立てなければいけなかったし、熱を出していた時間だけデートを延期してもらっていたこともあって、渋々出掛けて行った。
 相手の女性は、士官学校のすぐそばにある雑貨屋の見た目のかわいらしい店員だったが、あまりおしゃべり好きな賢いとは言えない女性だった。マスタングの声が出ないことを心配してくれたが、口を挟まれないのをいいことに始終自分がしゃべりたいだけしゃべった。それも、普段のマスタングなら絶対に途中で「それは違う」と訂正を入れたり、違う論点から解説したりしたくなるような、滅茶苦茶な話しぶりであった。だが、マスタングは声が出ない。だから仕方なく、うんうんと適当に相槌を打って聞いていた。
 大抵この手の女性は、マスタングとのデートで論破されて、怒って帰ってしまうことが多い。だがこの女性は、それはそれは満足そうな顔をして帰って行った。危うく次の約束を取り付けられるところを、マスタングが適当に誤魔化して凌いだほどだ。

 マスタングは当初、なぜこの女性だけが満足そうな顔をしたのか、分からなかった。しかしこれが己の声が出ないことに起因すると分かった途端、彼は頭を抱えた。女という生き物は、そこまで話を聞いてもらいたいものなのか、と。だが、百聞は一見に如かずだということも、身をもって体験したのだった。
 それ以来、マスタングは女性とのデートでは聞き役に徹することにした。相手の話が支離滅裂だったり安定しなかったりするとイライラすることもあったが、そこはじっと耐える。お蔭で、マスタングとのデートの後、話を聞いてくれないために嫌な顔をして帰るものはいなくなった。それどころか、聞きもしない情報をペラペラと話し、思わぬ収穫があることもしばしばだった。

 だが、マスタングは思うのである。これはあくまで表面上のお付き合いでの話。本当に恋人にするなら、自分の身勝手な話を辛抱強く聞いてくれて、それに対して良くも悪くもきちんと反応を返してくれた、彼の師匠の娘のような女性が良い、と。

(2012.9.14)



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